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那覇地方裁判所 平成3年(ワ)609号 判決

主文

一  原告と被告間で、別紙物件目録記載一の土地のうち、別紙図面一記載a、b、c、d、e、f、g、h、aの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分につき、原告が囲繞地通行権を有することを確認する。

二  被告は原告に対し、右部分の土地の通行使用を妨害してはならない。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

第一  原告の請求

一  主位的請求

1  原告が、別紙物件目録記載一の土地のうち、別紙図面一記載a、b、c、d、e、f、g、h、aの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下本件通路という)につき、無償、無期限の通行地役権を有することを確認する。

2  被告は原告に対し、本件通路につき、昭和四九年一二月頃の通行地役権設定契約に基づく、要役地別紙物件目録二記載の土地、目的通行のためとの内容の地役権設定登記手続きをせよ。

3  被告は原告に対し、本件通路上に設置したコンクリート製門柱および鉄製工作物を除去せよ。

4  主文第二項同旨

二  予備的請求

主文第一項同旨

第二  事案の概要

本件は、原告が、隣地所有者である被告に対し、原告所有地のため被告所有地の一部に通行地役権を有するとして、その確認および右登記手続きならびに通行妨害の禁止および工作物の撤去を求め、通行地役権が認められない場合は、囲繞地通行権を有するとしてその確認を求める事案である。

一  争いのない事実

1  原告所有名義の別紙物件目録二記載の土地(以下、目録二の土地という)と、被告所有の別紙物件目録一記載の土地(以下、目録一の土地という)の位置関係は別紙図面一記載のとおりである。

2  被告は平成四年一月ころ、別紙図面一記載イとロの地点に門柱を設置して所有し、同図面ハとニの地点に鉄製の杭を所有している。

二  争点

一  通行地役権の存否

〔原告〕

1 土地分譲者が、区画された土地の購入者のため共同通路を開設した場合、右通路につき土地分譲者と購入者との間に黙示の通行地役権の設定がなされたものと解され、その後の土地の取得者は、右の通行地役権設定により生じた権利、義務を承継する。

2 原告は、昭和五〇年一月頃、訴外玉井喜與子(以下玉井という)から目録二の土地を買い受けたが、その際、原告と玉井は目録二の土地を要役地とし、玉井所有の本件通路を承役地として、黙示的に通行地役権の設定契約をした。

玉井はその後目録一記載の土地を新垣宏昌に売却し、新垣は平成三年七月二六日右土地を被告に売却し、被告は同年八月二二日受付による所有権移転登記を経由した。

3 しかし、被告は次のとおり背信的悪意者であるから、原告の本件通行地役権について、登記の欠缺を主張することはできず、原告は登記がなくとも、通行地役権を被告に対抗できる。

(1) 本件通路は、一見して区画土地所有者のための道路であることは明らかであり、目録二記載の土地上の原告所有の建物の玄関の位置や土地の出入口の位置、本件通路の利用状況を見れば、目録二記載の土地のために本件通路が不可欠であることは明らかである。

(2) 被告と新垣は目録一の土地の売買契約に際し、通行地役権の登記がされていないことを危貨として、本件通路の閉鎖を企図した。

(3) 被告は、目録二の土地の西側にある、幅員が狭く、通行不能の里道を通行せよと主張するが、これは背信的である。

〔被告〕

1 目録二の土地は、原告の母が購入したものであり、原告は所有権を有しない。

2 玉井が原告のために、本件通路に黙示的に通行地役権を設定したとの主張は否認する。

3 また、被告が背信的悪意者であって、原告は被告に対し、通行地役権の登記がなくとも右権利につき被告に対抗できるとの主張は争う。被告は、原告が本件通路を通行しているのは知っていたが、これは、前所有者である新垣の好意によるものであると理解していたものであり、被告が原告の通行権を認めないことにはなんらの背信性もない。

二  囲繞地通行権の存否

〔原告〕

目録二の土地は、袋地であるから、原告は囲繞地通行権を有する。即ち、目録二の土地の西側に接して、幅員一メートルないし一・八メートルの里道があるが、匂配が急であるうえ狭いので、宅地利用の為の通路としての用をなさない。

〔被告〕

目録二の土地が袋地であることは否認する。西側の里道は、幅員一・三メートルから二・三メートルあり、人の通行に支障はない。

第三  当裁判所の判断

一  本件紛争に至る経緯

成立に争いのない甲一、二、二五の一ないし八(以上登記簿謄本)、四(分筆図)、一三の二、三、一四の二、金城和子の証言により成立を認めうる甲一六、二四、二九、証人仲村常博(一、二回)、同新垣宏昌、同金城和子の各証言によれば、次の事実が認められる。

1  玉井は、分筆前の沖縄県島尻郡与那原町字与那原湧當原三六〇四番一の土地を昭和四六年ころ購入して所有していたが、別紙図面二のうち、右下分筆図のとおり、右土地を同番一、四(本件通路は、この一部)、五、六、九(四、五、六、九は目録一の土地)、七、八(目録二の土地)の七筆に分筆した。(以下、右四、五、六、九の土地を旧三六〇四番四の土地などという)。旧同番四の土地は、他の六筆の土地の通行に供するため、このような位置と形状でもうけたものであり、道路として造成された。右分筆登記手続きは、昭和四九年八月七日に行った。

2  玉井は仲村常博を代理人として、昭和四七年二月七日、同番七の土地を原告の母である訴外金城和子に売却した。右売却時点では、分筆登記が未了であったので、金城和子は、三六〇四番七の土地につき、持分移転登記を経由した。昭和四八年ころ、玉井は残余の土地を屋宜宣喜に売却し、同年一一月一九日持分移転登記も経由したが、同人が売買代金を払わないため右売買契約は解除された。しかし、登記は屋宜名義のままであった。昭和四九年に前記のとおり分筆登記がなされ、昭和五〇年一月頃、玉井は同番一の土地を我如古稔に売却し、同じころ、同番八の土地(目録二の土地)を原告に売却した。右購入の資金は、原告の母金城和子が出捐し、契約締結の実務も和子が行った。(証人金城和子)。なお、同番七の土地と目録二の土地の買受けに際し、和子と原告は、本件通路のうち、各土地の前の部分の二分の一相当の代金を仲村に支払ったと主張するが、右を認めるに足りる証拠はない。その後、玉井は同番一、七、八を除く部分全部を新垣宏昌に売却した。新垣は、昭和五九年一〇月一八日、旧同番四、五、六、九の四筆の合筆登記手続きをし、これは同番五とされた。新垣は平成三年七月二六日、被告に対し、同番五の土地(目録一の土地)を売却し、移転登記を経由した。

3  新垣は、目録一の土地を買い受けてから後の昭和五一年ころ、右土地に住居を建築した。

原告は、昭和五九年ころ、目録二の土地に住居を建築した。右住居は本件通路を通って北側公道に出ることを前提に設計されており、従って玄関の位置は本件通路側であり、自動車の駐車場所も、本件通路に面した部分にもうけられている。

4  新垣は、原告が建物を新築して以来本件通路を通行することにつき、なんら異議をのべることはなかった。

しかし、被告が目録一記載の土地を取得してから間もなく、被告は本件通路を原告が通行することにつき異議をのべるようになり、別紙図面一イとロの地点に門柱を設置し、原告が本件通路を通行することが不能となるような措置を講ずる態度を示した。

二  通行地役権の設定および承継について

1  玉井が原告に対し、目録二の土地を売却した時には、旧三六〇四番四の土地は、旧同番五、六、八、九の各土地の所有者のために通路として利用することが予定されていたことは、別紙図面二の分筆図からも明らかである。よって、玉井は、原告のために、本件通路に通行地役権を設定したものと推認される。

しかしながら、玉井が仲村を代理人として旧同番五、六、九の土地を新垣に売却した際、新垣の代理人である同人の母与那嶺静子は、買い受けた土地はいずれも公道に面していないから、公道からの通路を確保すべきであるとの考慮から、旧同番四の土地を取得することを希望し、仲村は右要求に応じて右土地の所有権を新垣に移転した(証人与那嶺静子、同仲村)。その際、仲村は、旧同番四の中の本件通路には、原告のために通行地役権が設定されているということを与那嶺に伝えなかった。伝えなかった理由について、仲村は当法廷において、本件通路が通路であることは一見して明白であったので、必要がないから話さなかったと述べている。

新垣は目録一の土地を購入後、本件通路を整備したが、その際、原告の母から三六〇四番七の土地の一部を隅きりのため提供を受けている(証人新垣、甲二〇)。

昭和五九年ころ、原告が目録二の土地に住居を建築するに際し、建築確認のため本件通路を、敷地に接する道路として申請することにつき、新垣の了解を取りにいったところ、新垣はこれを拒否した。そこで原告は、北側隣地である三六〇四番七の土地の所有者である原告の母に依頼して、右土地に通路が存在するよう記載して、建築確認を受けた。(証人新垣、被告)。しかし、原告所有の目録二の土地と、同番七の土地との間には、約二メートルの段差があり、同番七の土地が低くなっており、実際に同番七の土地を通行して目録二の土地に達するのは、相当の埋土をしなければ困難であるため、原告は住居の建築後、今日まで本件通路を通行してきた。(甲一五の二)

新垣は、原告が本件通路を通行することについては、何ら異議をのべなかった。この点について、新垣は当法廷において、良心的に使用させていただけである旨のべている。また新垣は、目録二の土地と目録一の土地との境に金網(後にブロック塀)を築造した際、本件通路から目録二の土地に自動車が出入りする部分には、金網等を設置しなかったことについては、目録二の土地を駐車場に使用するつもりであったと述べている。(甲一三の二)。しかし、すでに目録二の土地は原告所有地であったのであるから、新垣が駐車場として将来取得できる可能性は低く、右証言は合理性に欠ける。

2  以上認定の事実によれば、新垣の代理人与那嶺静子と玉井の代理人仲村との間には、通行地役権の承継に関する明確な合意がなく、また、原告のために通行地役権の設定登記もされていなかったから、新垣は旧三六〇四番四の土地または本件通路について、目録二の土地のために通行地役権が設定されていることを明確に意識はしていなかったが、原告が住居を建築して生活を始めてから、事実上本件通路が不可欠であることを認識し、また、原告の母に隅きりのため土地を提供してもらったことから、通路としての使用を認めたものと推認される。

3  新垣が被告に対し目録一の土地を売却するに際し、新垣は、原告が本件通路に通行地役権を有することはないが、数年間は通行させるよう進言したことが認められる(証人新垣、被告)。

4  従って、玉井によって黙示的に設定された通行地役権について、玉井・新垣間、新垣・被告間において、いずれも承継の合意がなされたということはできない。

5  原告は、土地分譲に際して共同の通路が設けられたときは、合意がなくとも当然に右通路につき通行地役権が設定されたものであり、土地転得者は右通行地役権から生じる権利、義務を当然に承継すると主張するが、本件のように、目録一の所有者のみが地役権の負担を負うことになる場合においては、通行地役権の設定登記がなされているか、明確な承継の合意が前主との間でなされている場合を除き、右土地の転得者が当然に地役権の負担を負う合理性は存在しない。

三  背信的悪意者の主張について

原告は、被告は背信的悪意者であるから、被告は地役権の登記の欠缺を主張することはできず、原告は登記がなくとも自己が地役権を有することを被告に対抗できると主張する。

しかし、被告は新垣から目録一の土地を買い受けるに際し、原告は通行地役権を有しないが、数年間は通行を認めるよう進言されているのにとどまるのであり、本件通路が一見して通路であることが明白であるとか、原告が現に通行していることを知っているからといって、被告が原告の通行地役権を認めないことをもって、背信性があるとまでいうことはできない。

四  囲繞地通行権について(予備的請求)

目録二の土地および三六〇四番七の土地の西側に、公道に通ずる里道が存在する。しかし、右里道は匂配が急なうえ狭隘であり、人が一人通行できるにすぎず自動車が通れないことは、被告も認めるところである。(なお、甲八の一ないし四、九の一ないし六、八ないし一二、一五の九)。

また、目録二の土地の北側の三六〇四番七の土地と目録二の土地との間には、約二メートルの段差があるのは前示のとおりであり、三六〇四番七の土地の現状の形態で、北側公道から目録二の土地に自動車が進入するのは不可能である。三六〇四番七の土地の所有者は原告の母であるが、母であるからといって、自己の土地に埋土をして坂道を造成して原告のための進入路を作る義務が生じることにならないのはいうまでもない。

また、自動車の使用の必要性については、沖縄県は軌道がなく、バス交通も不便であり、自動車が日常の交通手段として不可欠とまではいえないにしてもきわめて重要であることは公知の事実である。

従って、里道が存在しても、狭くかつ急匂配で自動車もとおれないのであるから、現時点においては、目録二の土地は袋地に準ずるものと認めるのが相当である。

そして、北側公道から目録二の土地への通行は、本件通路が最適であることは、本件通路がつくられた経緯から見ても明白である。

そうすると、原告は目録二の土地のために、本件通路に囲繞地通行権を有するというべきである。

五  別紙図面一のイとロの地点に、被告が門柱を設置したが、これは原告の通行に支障をきたすものとは認められないから、その撤去の請求は理由がない。また、同図面ハとニの地点に新垣が設置した鉄製の杭があるが、これも原告の通行に支障をきたすものではないと認められる。

しかし、被告が右門柱を設置したり、原告の通行権を否定している状況から判断すると、被告が原告の通行を妨害する可能性はないとはいえないから、被告による通行妨害を禁止する旨の原告の請求は理由がある。

六  結論

以上により、原告の主位的請求のうち、通行地役権の確認およびその登記手続きの請求ならびに門柱および鉄製工作物の撤去の請求は理由がないから棄却し、通行妨害禁止の請求および予備的請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録一

1 所在 島尻郡与那原町字与那原湧当原

地番 三六〇四番五

地目 宅地

地積 八九四・〇四平方メートル

物件目録二

1 所在 島尻郡与那原町字与那原湧当原

地番 三六〇四番八

地目 宅地

地積 二三二・〇〇平方メートル

〈省略〉

〈省略〉

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